貧血患者のインプラント治療
監修医より
フラップレスインプラントなら貧血でも受けられる可能性がある
貧血の症状があると、通常のインプラント治療は断られるケースが多数です。
貧血になると感染症への免疫力や傷の治癒力が低下するため、メスを使用するインプラント治療のリスクが高いとされています。
フラップレスインプラントは大きく切らない、切開部を広げない治療法なので傷が小さく、回復までの時間が短いのが特徴。傷の治癒(ちゆ)不全や術後の感染症といった貧血に伴うインプラント治療のリスクを抑えられるため、貧血患者でも適用しやすい手術法です。
【滝澤先生に聞く】貧血のインプラントQ&A
貧血とは
貧血とは血液の成分が一定基準以下になってしまう病気です。鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、悪性貧血、溶血性貧血があります。一番多いのが鉄欠乏性貧血で酸素と結合するヘモグロビンが欠乏して身体の酸素量が不足します。
貧血がリスクファクターの理由
貧血がインプラント手術のリスクとなる理由は、身体の酸素が足りない状態だからです。酸素が足りなければ細胞の再生が促進されずに創傷治癒不全(そうしょうちゆふぜん:傷の治りが悪くなること)を起こしたり、感染症に弱くなったりするからです。
貧血患者がインプラントを受けるには
貧血の人がインプラント治療を受けるには、病状が安定していることが必要です。日常生活では気にならなくても、貧血の治療をおこなう必要があります。一般的にはヘモグロビン量が10g/ml未満であれば手術は延期になることがあります。
貧血の症状がある方がインプラント治療を受けるリスク
免疫力や細胞に酸素を運ぶ力に問題がある貧血患者は、インプラント治療にさまざまなリスクを抱えています。
血液には、酸素を運ぶ赤血球や細菌と闘う白血球、血を留める血小板など多種の血球成分が含まれているもの。貧血の種類によって違いはありますが、いずれかの血球成分の働きが低下することで、インプラント手術のリスクが高まります。また、貧血の症状には他の病気が隠れている可能性も。貧血の症状がある場合のインプラント治療におけるリスクを、インプラント術前、術後に分けて解説します。
術前のリスク
高血圧・脳卒中・心筋梗塞
腎機能による低下による貧血患者の場合、血圧調整が難しくなり、手術前の緊張やストレスだけで血圧が急上昇する危険性があります。場合によっては、脳卒中や心筋梗塞など命に関わるケースがあるため、インプラント治療が見送られるケースが多々あります。
腎臓は血液のろ過、酸素を運ぶ赤血球を作るエリスロポエチンの生成、血圧コントロールを担うレニンを分泌する役割などを持ちます。腎機能が低下すると、赤血球が十分に作られなくなり、貧血が発症。同時にレニンが分泌されず、高血圧の症状が現れている可能性もあります。
腎機能が低下している場合、痛みや外からの刺激、ストレスで血圧が上昇しやすいため、インプラント治療を断られる場合があります。
術後のリスク
傷が治りにくくなる
貧血になると赤血球の働きが低下し、傷口の回復に支障をきたします。赤血球は、酸素と結合し、血液の流れに乗って全身の細胞に酸素を運搬しています。赤血球の働きが低下すると、酸素が細胞に届かず、古い細胞から新しい細胞への入れ替わりが困難に。インプラント治療で切開した傷あとも、貧血ではない人に比べて治りにくくなります。
感染症にかかりやすい
血液を作る骨髄の働きが低下する再生不良性貧血では、免疫機能をつかさどっている白血球数が低下し、感染症を引き起こしやすくなります。白血球が減少すると、傷口から入る細菌を撃退できず、感染症のリスクが上昇。再生不良性貧血以外の人も含め、貧血の人は赤血球の働きが低下し、細胞に酸素がいきわたらないため、傷の治り自体が遅くなるため、細菌感染しやすい危険性があります。
血小板数の低下による止血困難
血球が全般的に減少する再生不良性貧血では、傷口をふさぐ働きをする血小板の数も減少。手術で大きな傷ができると、傷口からの血が止まりにくくなります。そのため、メスを使用するインプラント手術が適用できません。
貧血の症状を持つ方がインプラント治療を受けるには
貧血にはさまざまな原因がありますが、貧血の症状を持つ方がインプラント治療を受けるには以下3点を確認することが大切です。
- 血圧をコントロールする
- 内科を受診・主治医と相談する
- Hb:10g/dL未満かどうかを確認
特に、10g/dL未満の場合はインプラント治療は延期されるのが一般的です。
血圧のコントロールはストレスの解消も必要
血圧は緊張することで上昇します。たとえば病院においで血圧測定をするとなると、医師の白衣姿をみて緊張してしまい、血圧が上昇する「白衣高血圧」が挙げられます。
ストレスには肉体的ストレスと心理的ストレスの2つに分けられ、これらのストレスを解消することで、血圧コントロールが可能です。
- 肉体的ストレス:寒さ・暑さ・湿度といった気候条件 / 過労 / 睡眠不足
- 心理的ストレス:人間関係や仕事での悩み / 自分の病気
フラップレスインプラントならリスクを抑えられる
フラップレスインプラントは、メスで歯茎を切開する代わりに小さな穴をあけ、できる限り周りの組織を傷つけずにインプラントを埋め込む治療法。貧血の症状があり、インプラント治療を検討している方は、フラップレスインプラントの検討をおすすめします。
貧血患者へのインプラントの症例
咀嚼障害を自覚していたにも関わらず、義歯を装着していなかったケースです。このケースでは567が欠損しているために、該当箇所にインプラントを埋入。インプラント埋入時の出血を抑えるために、フラップレスでのインプラント埋入を実施しました。
処置・経過としては、コンピューター・シュミレーションシステムで、インプラントの直径・長さなどを設定しました。術中~術後にはセファメジンナトリウム1を点滴しています。さらに翌日からは、セフカペンピポキシル塩酸塩100mgを1日3回3日間投与した結果、術中・術後の異常出血は発生しませんでした。
術後に感染症の傾向もなく、良好に経過し、インプラント埋入から12ヶ月後には最終補綴物を装着。最終補綴物を装着して5年経過しても、経過は良好となっています。
出店:フラップレスでインプラント埋入術を施行した出血性素因を有する2症例
参考文献
- 厚生労働省(2016):歯科インプラントの問題点と課題等[pdf]
- 松坂賢一(2017):歯科インプラント治療時に注意すべき加齢に伴う臨床データの変化[pdf]
- 公益社団法人日本口腔インプラント学会編:口腔インプラント治療指針[pdf]
- フラップレスでインプラント埋入術を施行した出血性素因を有する2症例
まとめ
貧血でも適用できる可能性が高いフラップレスインプラント治療
切らない、傷口を広げないフラップレスインプラント。感染症や傷の治癒不全など、貧血に伴うインプラント治療のリスクを最小限に抑えてくれる治療法です。
ただし、フラップレスインプラントでも重度の貧血の場合、貧血の症状の改善が最優先。貧血に対応しながら、早い時期にインプラント治療を開始できます。
クリニック選びは慎重に
貧血の症状がある方は、高血圧といった別のリスク要因も抱えている可能性が高いため、フラップレスインプラントをお考えの方は、高血圧でもリスクの少ない鎮静麻酔薬を取り扱っているクリニックを選びましょう。
フラップレスインプラントを良く知っておくことが重要
メリットの大きなフラップレスインプラントにも、デメリットはあります。事前に詳しく知っておけば、納得した上で治療法を選択できます。フラップレスインプラントのメリット・デメリットや通常のインプラント治療との違いを、図を用いながら詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてください。
監修者紹介
滝澤 聡明医療法人社団明敬会 理事長
滝澤理事長の運営するクリニックでは、全国のクリニックでも数少ない「全症例の9割近くをフラップレス手術で行っている」クリニックです。
患者さんのためになる施術・カウンセリングを心がけており、フラップレス手術を推進するのもその思いがあってこそ。
「医療は絶えず変化するもの。だから自分の医院の診療もその変化に必ずついていく」という考えのもと、新しい技術を積極的に取り入れています。
運営者情報
ヘルスケア編集部Zenken株式会社
歯を失った場合の治療として、主流になりつつあるインプラント治療。しかしフラップレス手術は、ネット上はおろか書籍でもまだまだ情報が少ない治療方法です。
「メスを使わないインプラント」は、我々患者にとってメリットが大きいはず。そこで当編集部は、フラップレス手術を前面に押し出している医療法人社団明敬会に取材を申し込みました。
免責事項
切らないインプラント施術 フラップレス手術のすべて
監修:医療法人社団 明敬会
タキザワ歯科クリニック
03-3685-1444
湘南藤沢歯科
0466-37-3090
一般的な費用相場
190,000~400,000円程度(税抜)
※インプラント1本の埋入価格
【インプラント治療にかかる期間】
インプラント治療にかかる期間は、平均6ヶ月~12ヶ月。
主なデメリット
歯茎の骨の形状、神経の走り方によって受けられない人がいる。