フラップレスインプラントは高血圧の人でも受けられる?
監修医より
フラップレスインプラントなら高血圧でも受けられる可能性がある
歯茎を大きく切開、剥離(はくり)しないフラップレスインプラント。高血圧症を抱える人にも比較的適用されやすい治療法です。
高血圧症は、術中の外科的刺激や術後の腫れや痛みによるストレスによってさらに悪化したり、命に関わる合併症を引き起こしたりする可能性があるもの。通常のインプラント治療は高血圧だと断られるケースが多いものの、フラップレスインプラントは切開しないため手術による刺激が少なく、術後の腫れや痛みも少ないためリスクを抑えることができるのです。


【滝澤先生に聞く】高血圧のインプラントQ&A
高血圧とは
高血圧とは140/90mHg以上の血圧が持続することです。高血圧は血管を圧迫して動脈硬化などを引き起こします。高血圧の90%は本態性高血圧(ほんたいせいこうけつあつ)といって、明確な原因はわかっていませんが、生活習慣に関係が深いと考えられています。
高血圧がリスクファクターの理由
高血圧はさまざまな病気の原因となります。脳梗塞や心筋梗塞、腎機能疾患など、動脈硬化が進行すると発症の確率が高まる病気です。インプラント治療ではこのような合併症が大きなリスクになります。また、手術中に止血が困難になることもリスクとなります。
高血圧患者がインプラントを受けるには
高血圧の人がインプラント治療を受けるには、薬剤による血圧のコントロールが必要です。良好な状態であれば手術に問題はないでしょう。手術の際はストレスによる血圧上昇を避けるため、静脈内鎮静法を実施することが推奨されます。
高血圧症の人がインプラント施術を受けるリスク
血圧とは、血液が血管の壁を押す力のことで、高血圧はその力が強いということ。血管の壁に負荷がかかっている状態です。
インプラント治療を含む外科的手術や術前の緊張、術後の腫れや痛みによるストレスは、血圧を上昇させ血管にさらなる負担をかけてしまいます。負荷がかかり続けた血管の壁は、柔軟な組織が破壊されて固く、もろくなり、さまざまな合併症を引き起こす危険性があります。ここでは高血圧症の人がインプラント治療を受けるリスクについて詳しく解説します。
高血圧はインプラント手術そのものに関してはリスクファクターのひとつとして挙げられていますが、インプラント治療の予後についてのリスクファクターとしては挙げられていません。ただし、手術後のストレスや腫れなどが原因で高血圧を招くケースはあります。
手術中のリスク
麻酔による血圧の低下で血液が全身にいきわたらなくなる
多くの麻酔には血管を広げ、血圧を下げる働きがあります。高血圧によって動脈硬化が進むと、血管の壁が厚くなり血液が通りづらい状態に。通常通り麻酔を用いると血管拡張によって血液を押し出す力が弱まり、血液が全身にいきわたらなくなる可能性があります。脳や心臓、末端の組織(手先や足先)に酸素が回らず、脳の組織がダメージを受ける脳卒中や臓器に栄養が行かず働きが悪くなる心不全、腎不全が代表的な後遺症です。また、麻酔で下がった血圧が術後に急上昇し、血管が破れやすくなるリスクも。手術で使用する麻酔の選択や術前から術後にかけての血圧コントロールが重要です。
手術の刺激によるストレス・術後の腫れや痛みによる高血圧
手術前の精神的なストレスと同様、メスによる皮膚の切開や痛み、腫れといった身体的なストレスも高血圧の原因です。メカニズムも同様で、身体がストレスに対処するため、興奮時に働く交感神経が優位になります。通常のインプラントは歯茎を大きく切開するため、麻酔が切れた後は痛みや腫れが引くまで1週間程度。その間、交感神経の働きで血圧が上昇しやすい状態になります。痛み止めの服用や昇降剤(血圧を下げる薬)でコントロールし、過度な高血圧を防ぐ必要があります。
合併症
高血圧の合併症は非常に多くあり、脳、心臓、腎臓などに及びます。脳であれば脳出血やくも膜下出血、脳梗塞となり、心臓では心筋梗塞や狭心症になります。腎臓では腎機能障害、腎不全になります。このように高血圧では致死的な合併症が現れることも多いのです。そして、これらの合併症はインプラント治療において、大きなリスクとなり、ときには、インプラント治療が不可能と判断されることもあります。全身の健康を考えるためにも、自分の血圧を知り、しっかりとコントロールしておきましょう。
手術前のリスク
手術前の緊張による血圧の上昇による血管への負担
手術前の緊張で血圧が上がる人は多いもの。普段から血圧が高い人はさらに血圧が上昇すると、血管の壁に大きな負荷をかけることになります。
手術前に過度なストレスがかかると、ストレスに対応しようと体が交戦状態に。興奮時に働く交感神経が刺激され、心臓から送り出される血液量が増加します。高血圧症の人は、血管の壁に負荷がかかり続けることで、組織が破壊され血管が徐々に柔軟性を失っている状態(動脈硬化)。血流量が増加しても血管の壁が広がらず、無理やり流れる血液で血管の壁を強く押されてしまいます。
柔軟性を失うにつれ、血管はもろくなっていくもの。もともと高血圧な状態が長く続いている人は、血管が破れやすい状態です。脳や心臓周りの血管が破れると命に関わることも。手術前の緊張を和らげるため、精神安定薬を用いたり、リラックス効果の高い麻酔を用いたりすることで対処します。
高血圧の人がインプラント治療を受けるには
高血圧の人がインプラント治療を受けるには、以下のステップを踏まえることが大切です。
血圧をコントロールすること
インプラント治療での出血リスクを抑えるためには、術前から術後にかけての血圧を適切にコントロールすることが大切です。収縮期血圧を140mmHg 以下に、なおかつ拡張期血圧90mmHg以下にできるよう努めましょう。
適切な麻酔薬を用いてもらう
血圧のコントロールができれば麻酔はほぼ問題なく使えるようになりますが、よりリスクを下げるためには、麻酔薬の種類選びも大切です。血圧を抑える作用を持つ麻酔薬は過度な低血圧を招く可能性があり、逆に血圧を抑える作用がない麻酔薬は手術のストレスによる過度の高血圧を招く可能性があります。
緩やかに血圧を低下させる鎮静麻酔(静脈内鎮静法)などはおすすめの麻酔薬のひとつとして挙げられますので、カウンセリング時には麻酔の種類についても聞いてみるといいでしょう。
内科の主治医への相談も忘れずに
インプラント手術のリスク度は、内服している薬によっても違ってきます。内科の主治医がいる人は、主治医にインプラント治療を受ける予定であることを報告・相談しておきましょう。
高血圧症のリスクを抑えられるフラップレスインプラント
高血圧症の人にとってインプラント治療はリスクが高いものですが、フラップレスインプラントならリスクを最小限に抑えることができます。
フラップレスインプラントは通常のインプラントと異なり、歯茎を大きく切開することはありません。代わりに小さな穴をあけ、そこからインプラントを埋め込みます。大きく切開して埋め込み部分を露出させたり、縫合したりする時間が必要ないため、通常のインプラントでは30分程度の手術時間が15分程度まで短縮され、術中の血圧コントロールが容易に。歯茎の外科的ストレスも軽減されるため、血圧の急上昇リスクも抑えられます。
参考文献
- 厚生労働省(2016):歯科インプラントの問題点と課題等[pdf]
- 松坂健一(2017):歯科インプラント治療時に注意すべき加齢に伴う臨床検査データの変化[pdf]
- 公益社団法人日本口腔インプラント学会編(2016):口腔インプラント治療指針[pdf]
高血圧患者に対するインプラントの症例
高血圧患者に対するインプラントの症例のひとつとして、2014 年 6 月初診・75歳男性の症例をご紹介します。[注1]
男性は2011年7月から下肢深部静脈血栓症の診断をうけワルファリンカリウムの内服を開始しただけでなく、高血圧症,高脂血症,不眠症についても内服薬による治療中でした。
インプラント治療の際は本来であれば、血液を固まりにくくする作用を持つワルファリンカリウムの内服を中断したほうが好ましいのですが、男性の場合はワルファリンカリウムを中断することによる全身的リスクが大きいと判断され、内服は継続したままでフラップレスインプラントの埋入をおこなうことにしました。
インプラント埋入術が終わった時点で止血状態にはなっていましたが、のちの出血を防ぐためサージカルパックで創を覆うという処置もほどこしました。そして7日後にそのサージカルパックを除去した際も出血は認められなかった、という結果が得られたのです。
この症例の考察において、出血性の素因を持つ患者にインプラント埋入手術をする際には術中および術後の出血に対する配慮が必要だが、フラップレスサージェリー(フラップレスインプラントの術式)はその目的に適した術式と考えられる、という趣旨のことが述べられています。
日本口腔インプラント学会誌28巻4号:フラップレスでインプラント埋入術を施行した出血性素因を有する2症例[pdf]
まとめ
フラップレスインプラントで高血圧のリスクを抑えられる
切らない・剥離しないフラップレス手術は、手術による刺激が少なく高血圧症の人にとって手術自体に伴うリスクを下げる治療法。切開しないフラップレス治療は歯科治療以外でも使われており、高血圧症や糖尿病の人へ適用されてきました。フラップレス手術をインプラントにも適用することで、多くの人へインプラント適用可能性を広げた治療法だと言えます。
クリニック選びは慎重に
フラップレスインプラントは、切開・剥離をせず小さな穴からインプラントを埋め込む方法。一般的なインプラント治療と違って手術時の視野が非常に狭いのが特徴。インプラントがズレたり、周辺組織を傷つけるリスクも高くなります。また高血圧症や糖尿病といった手術自体にリスクを抱える患者は、フラップレスインプラントだとしても術中の病態管理・コントロールが重要です。経験豊富で歯科治療・全身管理に幅広い知識を持つ医師を選びましょう。
フラップレスインプラントを良く知っておくことが重要
フラップレスインプラント治療について治療の流れや医師によるメリット・デメリットの解説、治療を受けるクリニックの選び方など、さらに詳しい情報をまとめています。興味がある方は、ぜひチェックしてみてください。監修者紹介

滝澤 聡明医療法人社団明敬会 理事長
滝澤理事長の運営するクリニックでは、全国のクリニックでも数少ない「全症例の9割近くをフラップレス手術で行っている」クリニックです。
患者さんのためになる施術・カウンセリングを心がけており、フラップレス手術を推進するのもその思いがあってこそ。
「医療は絶えず変化するもの。だから自分の医院の診療もその変化に必ずついていく」という考えのもと、新しい技術を積極的に取り入れています。
運営者情報
ヘルスケア編集部Zenken株式会社
歯を失った場合の治療として、主流になりつつあるインプラント治療。しかしフラップレス手術は、ネット上はおろか書籍でもまだまだ情報が少ない治療方法です。
「メスを使わないインプラント」は、我々患者にとってメリットが大きいはず。そこで当編集部は、フラップレス手術を前面に押し出している医療法人社団明敬会に取材を申し込みました。
免責事項
切らないインプラント施術 フラップレス手術のすべて
監修:医療法人社団 明敬会
タキザワ歯科クリニック
03-3685-1444
湘南藤沢歯科
0466-37-3090
一般的な費用相場
190,000~400,000円程度(税抜)
※インプラント1本の埋入価格
【インプラント治療にかかる期間】
インプラント治療にかかる期間は、平均6ヶ月~12ヶ月。
主なデメリット
歯茎の骨の形状、神経の走り方によって受けられない人がいる。